【完】狂犬チワワ的彼氏
そして妃由を先に中に入らせて後ろ手でドアの鍵を締めると、何もわかっていない妃由が少し不安げな声を出す。
「…た、拓海くん…?」
「…」
「ほんと、どうしたの…?」
そう言って、首を傾げて俺を見遣って…
「…あ、それとも、今日も拓海くんじゃなくて龍也くんなのかな…」
まだ俺達の見分けがつかないらしい妃由はそう言うと、独り「うーん」って考え出す。
…ちゃんと見分けてくれる日は、いつ来るんだよ。
俺はそう思うと、日向のことを話す前にまず言った。
「ちげーよ」
「!」
「今日は、アイツなんかじゃない。ちゃんと俺だよ」
俺がため息交じりにそう言ったら、妃由はその瞬間「本当!?」って嬉しそうな顔をして見せる。
「久しぶり、拓海くん!もうすっごい会いたかったよー!」
「…」
「どうしたのかなぁって心配してたんだから!それに、もう来なかったらどうしようって…!」
妃由はよほど俺に会いたかったのか半ば必死にそう言うと、やがて「話って何?」って言葉を付け加えてそう聞いてきた。
だけどその問いに、俺は一瞬固まって…
…ストーカーに遭ってることは、何が何でも言いたくない。
俺はそう思うと、やがて妃由に言った。
「お前、日向と仲良いんだ?」