domino
 「もちろん好きです。特にスーパーカーとか憧れますね。」
 「そうだよね。君、話わかるね。」
 あれだけ、写真が飾ってあれば誰でもそう答えるだろう。そんな事を思いながら、そのまま話を聞いていた。
 フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェ。名だたる名車の名前が次々に会話に出てきた。中でもやはりフェラーリは特別らしく、特別長く、細かく語っていた。しかし、いくら聞いていても用件が出てこない。30分、40分と時間は過ぎていった。
 「あの、ところでご用件は。」
 かなり勇気が必要だったが、思い切って話を遮ってみた。しかし、好きなだけ好きな車の事を、特にフェラーリの事を話をしたせいだろうか、こちらが拍子抜けするくらい穏和な口調で答えてくれた。
 「あ、すまなかったな。用件というのは、その車の事なのだよ。」
 僕には何を言っているのか理解できなかった。と言うのも、僕の会社はマーケティング会社であって、車とは縁もゆかりもない会社なのだ。その会社に、車の事で用があると言っても、返す言葉が見つからなかった。
 「申し訳ありません。我が社はマーケティング会社なのですが。」
 僕がそう言い終わらないうちに、少し訝しげに答えが返ってきた。
 「そんな事は百も承知だ。何も仕事を依頼しようと言うのではない。」
 ますます意味がわからなかった。仕事を依頼するわけでないのに用があるとは、いったいどういう事なのだろうか。
そんな事を考えていると、よほど大変な事を話そうとしているのだろうか、社長が大きく息をついて黙ってしまった。さっきまでの、饒舌さからは想像が出来ないくらいの沈黙が続いた。
 「実は・・・。」
 沈黙を破って出てきた答えはとても意外なものだった。
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