domino
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 さっきのフェラーリはお父さんの車という事がわかり僕はホッとしていた。でも、鼓動の早さはそのままだった。なぜなら、今も隣に彼女がいて、そして僕は彼女を家まで送っている途中だった。こうして彼女と話していても全く現実感がなかった。歩いている事も、話している事も、生きている事さえ嘘のように思えた。
 「鈴木さんはお父さんがフェラーリに乗っているから、フェラーリが好きなんですね。」
 一言、一言、自分が何を話しているか確認しながら話した。そうでもしないと、会話が成り立つとは思えないくらいに緊張していた。
 「そうですね。それもあるかもしれないけど・・・。お父さん、男の子がほしかったみたいなんですよ。」
 「それで全部じゃないけど、少し男の子っぽく育てられちゃったって感じですね。」
 少し伏し目がちな表情に変わった。
 「そのせいか、他の女の子と違って、少し変わっているみたいなんです・・・。だから、彼氏とか出来なくて。」
 少しの沈黙の後、こう続けた。
 「だから、男の人と話するの慣れていなくて。前にコンビニで会った時、泣きそうになってごめんなさい。」
 「なんか、話すだけでも緊張しちゃって、思わず泣きそうになっちゃったんです。」
 あの時、彼女の瞳が潤んでいた訳がわかった。どれだけ彼女ががんばって僕に話しかけてくれたのか、それなのに何であんな態度をとってしまったのか、そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 「こちらこそ、素っ気ない態度をとってしまってすみませんでした。」
 今の僕の気持ちを全てはき出すつもりで彼女に謝った。その気持ちをわかってくれたのか、彼女は笑顔で首を縦に振った。
 「気にしてないですよ。だって、今はこうして普通にお話出来ているじゃないですか。大河内さんだと、なんか平気なんですよ。不思議ですね。」
 その時の彼女の瞳はとても素敵だった。
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