domino
55
 初対面の時からは全く想像出来ないほど、僕は本当にトランスライダーの社長に気に入られているようだった。やはり、予算を大幅に増額した事と業務の手伝いをしている事が効いているらしい。
社長は会うなり上機嫌で話し出した。
 「君がうちの娘と知り合いとは思わなかった。世の中も狭いものだね。」
 僕と彼女が知り合いという事が、また社長に気に入られたようだった。僕はこれまで女友達の親に会った事がなかった。と言うか、女友達自体いたことがなかった。
だから、こう言う時にどのように答えていいか見当も付かなかった。
 「はい。お嬢さんとは良いお付き合いをさせていただいております。」
 あまりの事に舞い上がっていたせいもあり、よく考えずに以前見たテレビドラマの台詞をそのまま話した。まず、会議室の空気が変わった事に気がついた。そして、話した後に台詞の意味に気が付いた。
 「あれって恋人同士のドラマだったっけ?」
 自分の発言が重大な過ちを犯している、そう気が付いた時にはもう遅かった。社長は目を丸くして内線に手をかけた。
 「あ、友里を会議室に呼んでくれ。」
< 211 / 272 >

この作品をシェア

pagetop