domino
 沈黙の中からあの声が聞こえてきた。
 「何もしない・・・。と言う事はこのまま話を聞いていればいいのか?」
 そんな事を考えている間も沈黙は続いたままだった。すると、社長が僕に何かを手渡してきた。それは車の鍵だった。
 「君はこの後仕事かね?」
 車の鍵とこの質問が僕の中では結びつかなかった。そのせいで、少しおかしいイントネーションで返事をしてしまった。
 「いえ、今日はこのまま帰るつもりですが・・・?」
 その返事を聞いて満面の笑みになった。そして、また鈴木さんを呼び出した。
 「友里。大河内君とドライブにでも行ってきたらどうだ?」
 さっきの彼女の寂しそうな表情を悟ってだろうか、思いもしない言葉が社長の口から出てきた。しかし、そう話す社長の表情は笑顔の中に寂しさを醸し出していた。それは僕にフェラーリの鍵を渡した事へ対してか、それとも娘を男と遊ばせる事を肯定する自分自身に対してかはわからなかった。
 「お父さん、私、これから会社に戻らないと。」
 彼女のその答えに僕は思い切りがっかりした。彼女は喜んで来てくれる、そう思っていたからだ。しかし、そんな僕の気持ちを知ってか知らずかお父さんは強引だった。
 「構わん。構わん。奴には私から言っておく。」
 そう聞くと彼女は大喜びした。
 「ホントね。お父さん。あとから会社に戻ってこいなんて電話してこないでよ。」
 「ホントに。ホントよ。」
 お父さんは絶対に電話なんかしてこない、そう知っていながらも彼女は何度も、何度も念押しをした。
 「社長の私が良いって言うのだから誰も文句言わないよ。」
 優しく、本当に優しくそう答えた。
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