domino
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 「お疲れ様。どうだった?初日は?」
 僕と友里は結婚式が近い事もあり、準備がし易いという事で一緒に住み始めていた。
 「うん。ほとんど問題なかったんだけどね・・・。」
 その時の僕の顔を見て友里は何かピンと来たらしかった。僕が言おうとした続きを話してくれた。
 「神田でしょ。」
 “神田”という名前が彼女から出てきた事に驚いた。
 「どうして、僕が神田の事を言うってわかったの?」
 この時の僕はまた変な顔をしていたらしい。彼女は少し笑いながら答えてくれた。
 「あいつは評判悪くて有名なのよね。私にも何回も言い寄って来て。でも、仕事は出来るらしいのよ。だから、クビにするかどうかお父さんも悩んでいるみたい。」
 言い寄られたと言う彼女の言葉がすごく気になった。神田が、仕事が出来ようが、クビになろうが、どうでも良い事だった。でも、彼女に言い寄ってきたと言う事実は聞き逃す事が出来なかった。
 「言い寄られたっていつ?」
 大人げないと思ったけど、すごくヤキモチを焼いていた。
 「ヤキモチ焼いてくれるんだ。うれしい。」
 そう言いながらにこやかに笑って、なかなか僕が聞きたい答えを話してくれなかった。じれったくなり、もう一度彼女に聞いた。
 「だから、いつ?」
 彼女は答えたくなさそうな顔をした。そして、しばらく黙り込んだ後こう言った。
 「いつと言うか、今もよ。もう、結婚するって言っているのにしつこいの。」
 その言葉に怒りがこみ上げてきた。僕はすごい形相をしていたらしい。そのせいで彼女が少し怯えながら宥めてくれた。
 「気にしなくても、もうすぐ結婚式だよ。いくら何でも結婚すれば何もしてこないんじゃないかな?」
 彼女はそう言ってくれたが、今日の僕にした奴の態度がそんな奴ではないと言っていた。1時間、2時間、いくら時間が経っても怒りが収まる事はなかった。腹の奥で鼓動が激しくなっていくのを感じた。
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