domino
3
　電車に扉が開くと僕はハッとした。
　「彼女だ。」
そんな事を思うよりも先に、後ろから次々に乗ってくる乗客に押され、彼女の長い髪が目の前に迫ってきた。いつもなら憂鬱な帰宅ラッシュも、今日は帰宅ラッシュ様々だ。
　憧れの彼女が今目の前にいるのだから。
　彼女からいい匂いがした。香水の匂いだろうか。もう、それだけで僕は夢心地だ。窓から見える夜景もまるで100万ドルの夜景だ。
　でも、そんな気分も10分も経ってくるとだんだん薄れてきた。さすがに、彼女の側にいると言うだけでは、このラッシュの辛さをずっと解消してくれると言う事はないらしい。そんなラッシュの苦しさの中で僕の中に一つの考えが浮かんできた。
　「彼女の側にいるだけでこんなに幸せなんだ。もし、彼女の事をもっと知る事が出来たら、そう、名前だけでもわかったらどんなに幸せなんだろう・・・・」と。
　「次は吉祥寺、吉祥寺です。」
停車駅を告げるアナウンスが聞こえてきた。
　「彼女の降りる駅だ。」
そう思うと同時に僕は彼女と一緒に電車を降りた。
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表紙・目次

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