TEARS【~君色涙~】
「……隼人?」

「……」


さっきまでの空気が嘘みたいに、いつになくジッと見つめてくる隼人。

どうして隼人がそんなことを言うのか分からなくて私はひとり首を傾ける。


そんな私に隼人はハッと我にかえったかと思うと、焦ったように瞳を泳がせたんだ。


「あ…いや、ワリ。今のは語弊があるっつーかその…誤解で」

「……?」

「実を言うとさ俺、栗原の手料理が食いたい」

「!」

「バレンタインのチョコ、うまかったから…」


ポリポリと頭をかきながらも教えてくれた隼人の言葉に、私は思わず身を乗り出す。


「…いいの?隼人の誕生日プレゼント、物とかじゃなくて料理なんかで…」

「? うん。つか、そっちのが大変じゃね?色々準備とか…」

「ううん平気、大丈夫!」


相変わらず不器用だし、別に得意なわけじゃないけど…お料理ならお母さんの手伝いで少しは習ったことあるもん。
今から猛特訓すれば何とかなる(!?)はず。

どうしよ。
隼人をお家に呼んで出来立ての料理を食べてもらうのもいいけど……


そこまで思いかけて、私はピンとあることを思いつく。


「ねぇじゃあそしたら誕生日、二人でピクニック行かない!?ちょうど日曜だし」

「…え、ピクニック?」

「うん!私、手作りのお弁当作って持っていくからさ、ちょっと遠くの広い公園に行って一緒に食べたい!」

「…あ、あぁ」

「あ、けどその日は隼人、部活入ってて空いてないかぁ…」


一人で勝手に話を進めだした末、最後はシュンと肩を落としてみせた私に、隼人から助け船が。


「いや、多分空いてる。今年はテスト前で休みだから」

「!」

「いいよ。俺の誕生日、ピクニックで。(ハズいけど…)」


とたんに目をキラキラと輝かせ始める私に、隼人は首の後ろを手でさすっていた。


私はニヤけが止まらず、あわてて口元を押さえる。


…どうしよ、嬉しい。

隼人の誕生日。

その日は隼人と、初デートだ。


二人で出かけられるのが嬉しくてつい、一人でウキウキしていたら、不意に隣からギュッと隼人に抱きしめられた。


「は、隼人…?」

「ん、ちょい黙って」


喋りかけようとする私の口を塞ぐように、隼人の唇が重なる。



「……」



あ、今日は長いキス…
< 212 / 440 >

この作品をシェア

pagetop