TEARS【~君色涙~】
その直後、私はガバッと勢いよく頭を下げていた。

緊張して目を合わせられず、私は一人深くお辞儀したまま話を続ける。


「…最初は、サッカー部にカッコいい人がいる。そう聞いて気になったのもあったけど、
本当は誰よりも一番練習をがんばってる広瀬先輩を見て、すごい…すっごく好きになったんです!
それからずっと、先輩のこと追いかけてきて……」


その間の二年間、本当に色々な事があった。


先輩と目が合えただけでも眠れなくなるくらい嬉しくて浮かれて。

人生で初めて経験する片想いに傷つき泣いて、

そんなとき傍で支えてくれた隼人を好きになって、付き合い、別れて……


一気に込み上げてきた想いに声が震え出しながらも、なんとか言葉を繋ごうとする私を、先輩は黙って聞いてくれているようだった。


少しずつ安心してきた私はようやく顔をあげると、広瀬先輩の目をまっすぐ見つめた。


「…わかってます。先輩が私のこと全然見てないのも何とも思っていないのも。
けど、卒業しちゃう前にこの気持ちだけはちゃんと、伝えたかったから…」

「……」

「ご卒業、おめでとうございます」


最後くらいは泣かないようにと決めて来たのに
気付いたらやっぱり、涙がこぼれていた。

せめて笑顔でさよならしようと精一杯笑って見せたとき、
先輩は一瞬どこか辛そうな瞳をしていたけど、
それは多分、たった今目の前にいる私に向けたものじゃない。


「このことを先輩に聞いてもらえただけで十分満足ですし、返事はいりません。けど、もし最後にわがままが許されるなら、ひとつだけお願いがあります」


するとこの思いが通じたのだろうか、この時ようやく先輩は私に口を開いてくれた。


「……俺に?」

「……」


そんな私たちの上では桜の花びらが舞っている。



――今日は私の、誕生日。


この日に先輩と初めて話せたこと。

目を合わせることができたこと。



それだけで十分、これ以上もうなにも望まないから

だから

せめてどうか…




「…先輩のその第二ボタンを、私にください」



ただ先輩を好きでいたという証を、私にください。
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