TEARS【~君色涙~】
その声にハッとした私は思わず壁の隅へと隠れる。


おそるおそる顔を覗かせると、声をかけられていたのはやっぱり隼人だった。



スマホを見ている最中に突然話しかけられたのか、隼人はやや状況がつかめない様子。



「え…あ、俺?…南中だけど」

「南中なんですね!去年、サッカー部が全国大会優勝したので知ってます!」

「……」

「あの、もしかして西高志望ですか?実は私もなんです。できたらライン交換しません?」

「いや、それはちょっと…」


そう言葉を濁して返す隼人に、何か思い当たる節があるのか女の子が続けてこう尋ねる。


「って事はやっぱり、今日一緒に来てた子と付き合ってるんですね…」

「…別に、そういう訳じゃねーけど…」

「じゃあ友達って事ですか?なら私も友達からで構いません。ラインとかしてお互い勉強励まし合えたらいいな、なんて…」



と、そこまで話す女の子の言葉を途中で遮るように、隼人がはっきりとした口調でこう告げた。



「悪いけど、そういうの抜きで受験に集中したいから」

「……」

「それに今は俺、誰とも付き合う気ない」



隼人のその返事に、影で聞いていた私の心臓がドク、と波打つ。


視線の先では、「わ、分かりました…突然すみません」とだけ言いペコッと頭を下げる女の子。

そのまま逃げるように、付き添いの女の子が居る元へと駆けて行ってしまった。


その足音が聞こえなくなっても、私はしばらくの間ここから動けないまま……


「……」
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