TEARS【~君色涙~】
何度も目を疑ったけど、やっぱりナンパなどではないようで、会えたことに気づいた様子のマヤさんは嬉しそうに笑ってる。

そしてその隣にいる人は間違いなく、教育実習生として以前中学に来ていた吉川先生だった。


ま、まさかマヤさんの約束の相手が吉川先生だったなんて…


開いた口が塞がらない私をよそに、視線の先に見えるマヤさんは吉川先生と一緒に人波の中へと消えていった。



お姉さんであるマヤさんと、あの吉川先生に接点があったなんて、隼人もきっと知らないんじゃないだろうか…


色々と突っ込み所はあるものの
自分が思うより案外世間は狭いんだな…と妙に達観してか、この日はそそくさと家に帰った。








マヤさんがプレゼントしてくれた参考書を広げつつ、私はひたすら試験勉強に勤しんでいた。

気分転換してきたおかげもあってか、昼間行きづまっていたはずの問題も今はなぜかスラスラと解けていく。

問題が分かるようになると途端に面白くなって無我夢中でいたら
ふと開けっぱなしにしていた窓から柔らかな風がふいて、頬をくすぐった。


あ……満月。


思わず動かしていた手を休め、顔を上げれば

夜空に浮かびあがっていたのは大きな月。


今日は一日中、曇って見えなかったのに。

もしかして梅雨明けたのかな……


この時とっさにスマホを確認すると、時計はちょうど夜中の0時を指していた。


日付をみると、今日は日曜日。



(…あの日からもう一年経つんだね)


月日は流れても
決して忘れることのない、大切な思い出。


あの日のことを一人思い返すように目を閉じていたあと
今も満月が浮かぶ夜の星空を見上げて、私はポツリとこうつぶやいた。



「お誕生日おめでとう。隼人…」


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