TEARS【~君色涙~】
藤原さん…


「せっかく私がわざわざ手を引いてやったのに、自分で怪我するとはね。しかも松葉杖って…ダッサ」

「……」

「ま、おかげで手間が省けて、私にとっては好都合だけど?」



振り向かないでも分かる。

今藤原さんがどんな顔をしているか。


俯いたまま何も言い返せずにいる私に、今度は傍にいたユカリがキッと藤原さんを睨みつける。



「ねぇちょっと!さっきから黙って聞いてりゃアンタねぇ…!」

「平気だよユカリ。もう大丈夫だから」

「!でも、このままウチら言われっぱなしじゃ…」

「うん、でも本当に平気だから。元はと言えばよそ見してた自分のせいだし」


そう言って、堪忍袋の緒が切れた様子のユカリを引き止めた私はクルッと背を向ける。

そして未だ慣れない足取りながらもあっさり自分の席へと着いてしまった私に

藤原さんは一言


「は…何なのアイツ」


と、どこか後味の悪そうな声で呟いていた。




お昼休み。

まだ暑さの残る校庭では、ムカデ競争の練習に熱が入る皆の姿が浮かぶ。


その様子を私は一人ベンチに座って見ていると、しばらくして向こうから隼人が走ってきた。



「優衣、大丈夫か?」



他にも周囲は休み時間を返上して練習に力を注ぐクラスがある中、一人ポツンとギプス姿で見ている私が不憫に思えたのだろうか。


休憩の合間、気にかけに来てくれた様子の隼人に私は笑ってみせる。


「うん平気。それより皆さっきよりも足綺麗にそろってたよ」

「え、まじで?」


隼人の言葉に私は大きく頷き返す。

すると隼人は額の汗を拭いながら、こんな事を聞いてきたんだ。


「…優衣さ、俺に何かできる事ない?」

「出来ること?」

「うん。足治るまでの間さ、色々と不便だろ?俺に出来ることなら何でもするし」


何でも…

隼人自身、深い意味があって口にした訳ではないであろう言葉に、心が揺らいだ。

それでもとっさにグッと言いかけた気持ちを飲み込んで、私はこう答える。
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