ピアノを弾く黒猫
贈り物
次の日。
大学の講義を終えたあたしは、大学を出る。
「優ちゃん」
聞き覚えのある声に、振り向く。
「生島くん」
生島聖(せい)くん。
あたしが話す唯一の男の人。
由香は彼氏と勘違いしているみたいだけど。
ただの友達。
「優ちゃん、昨日のコンサートお疲れ様」
「ありがとう。
だけど昨日は奈々恵さんのコンサートだよ。
あたしはただの伴奏しただけ」
「でも菱川奈々恵さんのコンサートに出られるなんて、優ちゃんが上手いって証拠だよ」
「あたしなんてまだまだだよ…」
「優ちゃん。
良かったらこのあと僕と…」
「優子さん!」
聞いただけで嫌な気分がするのは、1人しかいない。
昨日の、黒猫だ。
黒猫は大学の門の外にいて、あたしに向かって手を振っている。
皆が不思議そうな顔をして通り過ぎていくのを、彼は全く気にしていない。
隣にいる生島くんを見ると、ムッとしていた。