ピアノを弾く黒猫
「何しているのよ、アンタ」
生島くんと一緒に、ソイツの前に立つ。
ソイツは相変わらず、黒を基調とした服で笑顔を浮かべていて、何だか幼い感じがした。
「実は昨日優子さんにお渡ししたいものがあったんですよー。
でも昨日うっかり忘れてしまって、今日持ってきたんです」
「ちょっと良いかな?」
あたしと彼の前に立つ生島くん。
生島くんのかけている銀縁眼鏡が、キラリと光った。
「優ちゃんにちょっかい出すのはやめてくれないか?
優ちゃん嫌がっているだろ」
「……どちら様ですか」
「君には関係ないだろう。
優ちゃんに話しかけないでくれないか」
「……へぇ、彼氏ですか?」
少しニヤリと笑った彼が、あたしを見る。
「か、彼氏じゃないわ」
「なら、俺が優子さんに話しかけようが何しようが良いじゃないですか?
それともあなた、優子さんが好きなんですか」
生島くんは黙り込んでしまった。
あたしは周りがザワザワとあたしたちを見ているのに気が付いた。
「ごめん生島くん!
あたし、少し用事思いだしたから」
「あ、わかった。
じゃあね、優ちゃん」
あたしは乱暴に黒猫の腕を引いた。
そして引っ張りながら歩きだした。