ピアノを弾く黒猫
大学が見えない位置まで引っ張ると、あたしは手を離した。
「何の用?」
「これ、渡しに来ました」
サッと後ろから花束を取り出す彼。
白い薔薇の、蕾だった。
「白薔薇…?」
「お嫌いですか?」
「嫌いじゃないわ。
でもこれ、何であたしに?」
「昨日本当はお渡しするつもりだったんです。
けど昨日は忘れたので、今日持ってきました」
「そうなの…」
あたしは両手で花束を持った。
「何で昨日?」
「昨日優子さん出ていたじゃないですか」
「確かに出てはいたけど、あたしは伴奏よ」
「俺は優子さんばかり見ていましたけどね」
ニコッと可愛らしく笑うソイツ。
「ありがとう。
嬉しいわ。
だけどあたし、あなたのこと知らないわよ?」
大学内では見たことないし…。