ピアノを弾く黒猫

「優子さんって本当にピアノが好きなんですね。
弾いているときの優子さん、本当にキラキラしていました」

「ありがとう。
あたしはピアノ、大好きよ。
ピアノは誰しも笑顔にさせてくれるでしょ？」




ピアノリサイタルに行ったとき、あたしだけじゃなくて、誰しもが瞳をキラキラさせて、演奏者を見た。

ピアノに限らず、音楽は人を感動させ、笑顔に出来ると思う。

あたしはずっとそれを信じ、今まで続けて来れた。





「笑顔、ですか……？」

「ええ」

「……確かにそうかもしれませんね。
俺も優子さんのピアノを聞いて、笑顔になりましたから」

「ありがとう。
ところで黒田くんは、どこであたしのこと知ったの？」

「この間の菱川奈々恵さんのコンサートですよ。
それで優子さんのピアノを聞いたんです」

「あたし、ただの伴奏だったのよ？」

「俺は優子さんが主役に見えましたよ」

「……ッ」





本当、この子は…。

あたしを恥ずかしくさせるような台詞をサラッと言って。

天然なのか、無自覚なのか。

…どちらも似たような意味だわ。





「優子さん、俺に聞かせてください。
優子さんのピアノ、もっと聞きたいです」

「…わかったわ」




あたしはそれからずっと、大好きな曲を弾き続けた。