ピアノを弾く黒猫
「黒田くん、音楽への道は進まないの?」
「そうですねー……」
コクンと水を飲んだ黒田くんは、再びケロッと笑う。
「俺が興味あるのは、音楽じゃなくて、音楽をやる優子さんなんで。
音楽の道へ進みたいって言うのは、ないですね」
「あらら……オホホ」
口元に手を添えて笑うお母さん。
あたしは両手で顔を覆った。
本当黒田くんは、あたしを赤面させる天才なんだから。
「ここまでで良いですよ優子さん」
「家まで送るわ」
「大丈夫です。
道も知っているので、ここから帰れます。
それでは!」
夜道を走り抜けていく黒田くん。
闇夜に溶け込む姿は、本当に黒猫みたい。
黒田くんは、黒猫を擬人化させたみたいだ。
あの黒髪もしなやかな体躯も、黒い服も。
『優子さんッ!』
人懐っこい笑みを浮かべながらも、
他人を寄せ付けない雰囲気も……。