ピアノを弾く黒猫








「先ほど妻から電話で、黒田くんのことを聞いた。
優子のことが好きだそうだな」

「……ええ」




一気に恥ずかしくなった。

あの時勢い余って言っちゃったんだよなぁ。

我ながら恥ずかしいことをしちゃったな。




「妻から黒田くんに聞きたいことがあると言われた」

「何ですか?」

「何故、優子に白薔薇の蕾を送った?
白薔薇ならともかく、何故蕾なんだ」

「…………」




俺は黙り込んだ。

何故?

…答えは、決まっている。





「あの花が…俺の優子さんへの気持ちだからですよ」

「蕾が、か?」

「はい」




優子さんのお父さんは黙り込んでしまった。





「…失礼します」




俺はそのまま、歩きだす。





いつまで、見られるかな。

あの笑顔を。

いつまで聞けるかな。





あの音色を。








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