ピアノを弾く黒猫
「“あの子たち”を守りたいなら、今すぐアタシの飼い猫だということを見せて」
「……ッ」
俺は箱の中から鈴のついたネックレスをつける。
チリン…と小さいはずの音が、やけに大きく聞こえた。
「よく似合っているわよ初夜。
これであなたは、アタシの飼い猫。
主人に逆らっちゃ駄目よ、猫ちゃん」
「……はい」
「さ、もう用はないわ。
“あの子たち”待っているんでしょ?
早く帰りなさい」
「……わかりました」
俺は走り出す。
走る度、進む度、鈴が鳴る。
その音がやけに、耳へ響く。
「うっ……」
ビルを出た俺は、その場にしゃがみ込んだ。
チリンッ…と嫌な音をたてた。
癒された。
あの音楽に。
久しぶりだった。
あんなに自由に弾けたのは。
俺はこれからも、
嘘をつき続けて、
偽りの言葉を吐いて、
あの音を汚すのだろうか?