ピアノを弾く黒猫
「どうしてあたしに嘘ついたのよ」
「優子さん……?」
「どうして黙っていたのよ。
アンタがピアノの天才少年だって!」
黒田くんの瞳が、大きく開かれた。
「何が“齧った程度”よ!
齧った程度の人間が、メディアで騒がれる天才少年だなんて言われるはずないじゃない!」
「優子さん……」
「どうして黙っていたのよ!」
「……ッ」
「言えないの?
なら二度とあたしの前に現れないで!」
あたしは踵を返し、走り出した。
後ろから足音がしない。
黒田くんは、追いかけて来なかった。
「お帰りなさい優子」
「ただいま……」
半ば乱暴に玄関の扉を閉め、あたしは部屋へ向かう。
お母さんが心配そうな顔をしてやってきた。