ピアノを弾く黒猫
「大体あなたも可哀相よねぇ。
あんなことにならなければ、あなたもピアノを続けられていたのに」
「……」
「今、あの人はどこにいるの?」
「知りません。
あんな人、俺には関係ないですから。
俺らには、アイツらだけで十分です」
「なら並木優子を傷つけるぐらい簡単じゃないかしら?」
「…俺は、アイツらと優子さんを守ることが大事なんです。
ですからもう、奈々恵さんの言う通りには出来ません」
「……うるさい飼い猫は捨てられるのよ」
「別に構いません。
アイツらと優子さんを守れるなら、何を失っても構いません」
俺は立ち上がり、入り口へ向かう。
奈々恵さんの乱暴な舌打ちが聞こえたけど、気にしないことにした。
ビルを出た俺は、そっと右頬に触れた。
さっき、優子さんに殴られた場所。
痛みは引いたはずなのに、ジンジンする。
右頬だけ熱を持っているみたいに、熱い。
「あ、お兄ちゃん!」
「初にぃ!」
「お兄ちゃん、お帰り!」
「初にぃ、どうしたの?」
ビル近くの公園で遊んでいる弟と妹たちが、一斉に俺の方へやってくる。