ピアノを弾く黒猫







「…わかったかしら?大事な人」



女の人の声で、ハッと我に返る。




「わかりました…。
俺はずっと…優子さんに恋をしていたんです」

「わかったみたいね。
じゃあ、優ちゃんの元へ行ってあげなさいよ」




優ちゃん?





「あなたは……?」

「ああ、申し遅れたわね。
私は西條由香。
並木優子…優ちゃんの親友よ」

「由香さん…?」

「ええ。
あなたを猫のように飼う、菱川奈々恵さんのファンでもあるわ」

「……!
何で俺のこと知っていたんですか……」

「私は優ちゃんの親友よ?
優ちゃんがどんな人と仲良いのかって知っているわ。
あなた―――黒田初夜くんのこともね」

「…………」

「黒田くんが何故奈々恵さんに弱みを握られているかは知らないわ。
だけど、優ちゃんを傷つけるような真似はしないで」

「……それは、わかってます」

「あなたがのんびりしていると、生島くんに優ちゃん取られちゃうわよ」




生島聖。

眼鏡をかけた、俺と正反対そうな、優子さんに片思いしている男。

そして、俺がしていたバイトのないように深く関わる人物。





「そういえば、先ほどから優ちゃんと連絡がつかないのよねー」

「え?」

「弟さんや妹さんのことは私が見ておくわ。
黒田くん、優ちゃんを探してきてもらえるかしら?」

「……はいっ」




俺はベンチから立ちあがり、公園を出た。







「絵本や物語の世界では、姫を助けるのは王子様だわ。
でも、姫は必ずしも王子様に恋をするわけではないわ。

姫の1番傍にいる―――黒田くんのような黒猫を好きになっても良いと思うわ。
姫のことを誰よりも知り、誰よりもお傍にいる黒猫にね。




何で私、こんなこと言っているのかしら?
きっと妹に毎晩読み聞かせている絵本のせいね。




ともかく。
黒田くん、優ちゃんを頼んだわ……」







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