ピアノを弾く黒猫







その人はあたしの前に来て、ふっと笑った。

あたしの頬を、スッ……となぞった。

思わず体がビクッと反応してしまう。




そしてあたしは、目の前でニヤニヤと気味悪く笑う人―――生島くんを睨んだ。





「どうしたのさ優ちゃん」




生島くんはあたしの髪に触れると、再び口元を歪めた。





「話せないんだったね。
少し痛いけど、我慢してね」




あたしの口元のガムテープを外す生島くん。

口を自由に動かせられるようになったあたしは、生島くんを睨んだ。




「何しているのよ生島くん。
早くロープを外してよ」

「それは出来ないよ優ちゃん。
外してしまったら、優ちゃんはアイツの元へ行ってしまうからね」

「アイツ……?」

「黒田初夜だよ。
まるでアイツは、優ちゃんのストーカーだね。
僕の優ちゃんなのに、何で付きまとうんだかね」



僕の優ちゃん…?

あたし、生島くんの彼女じゃないよ?

生島くんのことは確かに好きだけど、それは恋愛対象の好きではない。

あくまで友達としての好きだ。

由香に感じる好きと同じだ。






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