ピアノを弾く黒猫








「優子さん、このホール、覚えてますか?」



黒田くんが聞いてきたので、改めて見上げる。




「…暗くて、よく見えない」

「ここ、6年前に俺が優子さんに会った場所なんですよ」

「嘘ッ!?」




―――ここで、あたしは黒田くんの演奏を聞いて、ピアニストになろうと決心した。

いわば、全てが始まった場所だ。





「まさか6年後、こうして優子さんと立てるなんて、驚きです。
あの頃の俺、この世の全てを呪っていましたから…」

「え?」

「俺、6年前…ピアノを弾いている意味を見失ったんです。
だから楽譜を全て燃やして消そうとしていた所、優子さんにあげたんです。
あの日から、俺は優子さんに会って連弾するまで、ピアノには一切触れていませんでした」




一瞬目を閉じた黒田くん。

目を開けた時、黒田くんはあたしを見て笑った。





「優子さんになら、話せそうです。
……聞いてもらえますか?」




―――答えは、決まっている。





「当たり前じゃない。
黒田くんのこと、あたしもっと知りたいから」






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