ピアノを弾く黒猫
そんな生活を続けたお蔭で、借金は残り少なくなっていた。
だけど同時に、ピアノに抱いていた楽しさも失っていた。
俺はお金を稼ぐためにピアノを弾いていた。
昔、父親の弾く姿に憧れて純粋にピアノを弾くのを楽しんでいた俺は、どこにもいなくなっていた。
ある日、コンサートをいつも通り終え、帰る途中。
見知らぬ女性に声をかけられた。
『あなたのピアノに心はこもっていないわ。
そんなつまらないピアノ、弾くのをやめた方が良いわ』
『……アンタに何がわかるんだよ』
『アタシはあなたの全てを知っているわ。
あなた、黒田雷夜(らいや)の息子の初夜くんでしょ?』
『…父さんの行方を知っているのか』
『知らないわ。
だけどアタシ、あなたのお父さんのことなら知っているわ。
あなたたち家族に借金を押し付けて行方不明ってこと』
『…………』
『あなたの下にも可愛らしい弟さんや妹さんいるんでしょ?
まだ小さいから、長男であるあなたが助けないといけないのね。
お母さんは働きすぎで体壊して、入院中だものね』
『……だから何だよ』
『あなたがアタシの言うこと聞くのなら、アタシがその借金消してあげるわ』
『……は?』
『アタシ、好きな人いるの。
ただその人には、好きな人がいるの。
その女と彼が別れるためには、あなたが必要なの。
アタシに協力してくれるなら、あなたを助けるわよ』
その時俺には、弟や妹を助けることしか頭になかったから。
迷わず頷いた。