ピアノを弾く黒猫
「そう。
わかったわ。
アタシから断っておくわね」
「お願いします。
それと…奈々恵さん」
あたしは立ち上がって、頭を下げた。
「初夜と会わせてくれて、ありがとうございます!」
「え?」
「初夜から全部聞きました。
奈々恵さんが、生島くんがあたしを諦めるよう、あたしに初夜を紹介させたんですよね。
ありがとうございます!」
あたしは再度頭を下げた。
「あたし、初夜に出会えて良かった。
初夜に会えたから、あたしはさっきのような決断を出せたんです」
初夜の夢は、教師になることみたいだ。
かつてピアニストになる夢を諦めた自分のように、夢を諦める子どもが出ないよう、教師として初夜は伝えたいと言っていた。
あたしも、ピアノの持つ力を、伝えたいんだ。
「良かったわね…。
優ちゃん、おめでとう」
「奈々恵さんも、頑張ってくださいね。
生島くん、凄く良い人ですから。
奈々恵さんが好きになる気持ちもわかります」
「アタシも優ちゃんと初夜くんを見習って、頑張らないと!」
あたしたちは笑いあった。