ピアノを弾く黒猫
弾き始めたのは、初めて連弾した時に弾いた曲。
あたしの部屋の中に、ピアノの心地よい音色が響き渡る。
やっぱり初夜、指使いが綺麗。
あたしも見習わないとな。
弾き終わり、あたしは初夜を見る。
初夜は恥ずかしそうにはにかんでいた。
「どうしたの?」
「優子さん、座って見ていてください」
「ん?」
初夜は曲名も告げずに、再び鍵盤に指を置き、滑らかに弾きだす。
何度も弾いて、耳の奥深くに残っている曲。
あたしの目から、自然に涙がこぼれてきた。
「……いかがですか。
久しぶりに弾いたので、腕は落ちていると思うんですけど…」
「……ありがとう、初夜」
あたしは初夜に抱きついた。
初夜は驚いていたけど、あたしの背中に腕をまわしてくれた。
初夜が今弾いてくれたのは、
あたしがピアニストを目指し始めた6年前、
初夜が弾いていた曲だ。
その楽譜は、
あたしが初夜からもらったものだ。