ピアノを弾く黒猫
あたしは涙を拭いながら、本棚の中にある楽譜の入ったファイルを取り出し、1番最初に入っている楽譜を見せた。
6年前のものだから所々黄ばんでいるけど、譜面は見える。
「懐かしいですね。
優子さん、ずっと持っていてくれたんですね」
「あたしの原点で、宝物だから」
「俺、優子さんに会えて良かったです。
こうしてまたピアノに関われるのは、優子さんのお蔭ですから」
「あたしも、初夜に会えて良かった。
これからも、よろしくね?」
「はい、勿論です」
笑いあったあたしたちは、楽譜を譜面台に置いた。
「連弾しよう?」
「わかった。……優子」
「…………」
いきなり呼び捨てにされ、思わず両手で顔を覆った。
初夜の楽しそうな笑い声が聞こえ、あたしも指の隙間から笑った。
あたしが恋したのは、
ピアノを弾ける黒猫だった。
これからもあたしは、
この黒猫と一緒に、
歩んでいきたい。
【END】