また、君に会いたい
「じゃぁ、桜の木を見ていたのは?」

「いつも、あの木の下で彼と待ち合わせをしていたの。そして、転勤前に『また、一緒にこの桜を見よう』って、そんな約束をしていたんだ。
女がいるって聞いて“もう無理だ”って思っている自分と、どこかで彼を待っている自分がいて……。自然とあの場所に足が向いてしまっていたの」


俺は黙って話を聞いた。


「で、あなたと初めて会った日の前日……、同僚から『彼がその女と結婚する』って聞いてね……」


野中さんは、そう話しながら遠くを見る。


「頭では待っていてもムダだってわかっていたんだけど、やっぱりショックでね……。ずっと彼の事、諦めきれてなかったから……」


悲しそうな表情でそう言うと


「はいっ!もう、この話は終わり!!私はもう大丈夫だから」


黙ってしまった俺を見て、にこっと笑う。

そして、


「さっ、飲もっ!すみませーん!!生ふたつ!」


明るく、店員さんに注文をした。


その後も、何杯かお酒を飲み、居酒屋を後にする。



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