満たされない心〜貴方が満たしてくれた〜


私は地図を片手に新しく勤務する病院へ向かっていた

『ん……住宅街だけど……』
『んと……あそこの角をまがるのね』

角を曲がると……
間覚えがある家だった……


その病院は……
香坂クリニック

翔平さんと小百合さんの病院。

香坂って言うの?
初めて知った……

初めて小百合さんに会った時も
道なんて知らないし覚えてないし
診てもらったって言っても裏の家からだったし……家の表札も気にしてなかった

……ってことは
小百合さんが妊婦なの?
それすら知らなかった……

私はクリニックのドアを開ける

待合室には誰もいない……
そりゃそうだ
今日は午後から休診って書いてある。


『こんにちは……結衣です』


少し待つと、翔平さんが顔を出した。
10年ぶりに見る翔平さんは少し老けたかもしれないけど、変わらない優しい顔。


「おっ、結衣先生だ」


『……やめてください』

『……お久しぶりです。お世話になります』

私が頭を下げると翔平さんも

「医院長の香坂翔平です」


やっぱりむずかゆくて、笑ってしまう


「笑ったなぁ」

そういう翔平さんも笑ってくれた


< 156 / 205 >

この作品をシェア

pagetop