あなたに恋してる
「あはは…今、出したばかりなのにもう飲み干したんだ」
おかしそうに笑って空いたグラスを下げていくマスター。
そして、新たに生ビールを3つ出して去っていく。
「お疲れ…」
「…………」
「…………」
悠のかけ声でグラスに口をつける。
いつもこうだ。
明るく天真爛漫な悠が空気を読んで、険悪な雰囲気をリセットする。
「今日の美雨はご機嫌斜めだね。何があったかお兄さんに言ってごらん…」
幼なじみだからこそわかるのか、優しい声で聞いてくれるから嬉しくてウルっときてしまう。
よしよしと優しく頭を撫で、私が喋り出すのを待っててくれる。
「……あのね、先生に言われて患者さん
の歯の型を取ってたんだけど、患者さん嘔吐癖があるみたいで何度やっても型がとれなかったの」
「うん…それで⁈」
「やっと、とれたんだけど…その間に先輩スタッフが他の席の患者さんを回していて大変だったみたいで迷惑かけたの。
仕事が終わって謝ろうと思って更衣室に入ろうとしたら……」
「かげ口か…」
「うん…」
「美雨は、仕事を始めたばかりなんだから仕方ないよ。失敗は誰にだってあるさ
…それを影で悪く言うなんてひどいな」