あなたに恋してる
重層の扉を開け入って行けば、視線の先に居たのは珍しく早く来ていた真斗がいつもの席に座っていた。
緊張する…
この間の出来事が頭の中を過ぎり声をかけるのに躊躇してしまう。
「……ま『前園さん、こっち』…」
私を呼ぶ声の方を見れば……真斗の隣にいる。
その人は、田近さん……
うそ……
約束の時間までまだ時間はあるのに…
真斗も振り向き私を見ている。
どうしよう……
立ち尽くし、体が動かない私の目の前にやってきた田近さん。
「前園さん⁈来てくれて嬉しいよ」
爽やかな笑顔を向けてくるが、私の心は真斗に向いている。
田近さんは私の左腕をとり真斗を紹介しようとする。
「俺の先輩で『美雨、こっち座れば…』」
いつも私が座る席にある鞄を真斗はずらし、座るように促しているように見える。
「えっ…知り合い⁈」
田近さんが驚いている側で真斗が私の右腕を引っ張り自分に引き寄せた真斗。
「賢吾…手を離せ」
いつも以上に威圧的だ。
「…」
迫力に負け手を離す田近さん。
その瞬間、グッと腰を掴まれさらに真斗に密着してしまう。
椅子に座っている真斗との視線の高さが同じでドキドキする…