悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
バックミラー越しに会話が成立すると、
私の手をグイッと引っ張り車から降ろし
て峯岸さんが運転する車は行ってしまっ
た。
車の後ろ姿を見ている私の腰に手を置き
、歩みを促す彼が耳元で囁いた。
(胡桃…恋人らしく演じろ)
本来の目的を思い出し、視線を彼に向け
た。
彼の中ですでに演技が始まっているよう
で、優しい笑みを浮かべている。
1度だけ、大きく息を吸って覚悟を決め
ると彼の腕に手を絡め一緒に歩みを進め
た。
会場になる大きなホールに足を踏み入れ
ると、すでに大勢の人が集まり賑わって
いる。
そして、視線が一気に集まり静かになる
が、彼の腕に寄り添う私に視線が集中し
だし、ひそひそと話し声がしだした。
そんなことを気にしないというように彼
はある人物を見つけ、歩き出す。
「会長…お久しぶりです」
会長…建築業界のトップで、政治家とも
深い繋がりがあり、彼の一言で政治生命
が絶たれるという噂もある人物だ。
「おぉ、零君じゃないか…君が今日来る
と聞いていたが、いつ、日本に戻ってき
たんだ⁈」
「つい、数日前です。真っ先に会長にご
挨拶をと思いまして父の名代で参りまし
た」
深々と頭を下げ、笑みを浮かべる彼。
「そうか、そうか…ということは跡を継
ぐ為に戻ってきたのかね⁈」
恰幅のいい会長は嬉しそうに尋ねる。
「はい…まだ先の話です。今は、父の側
で学ぼうと思っています」
堂々とした態度で答えていた。
「そうだな…建築家として名前を売って
いても君はまだ若い、お父さんの元で経
営を学ぶことが大事だろう。何かあれば
頼りなさい」
「はい…ありがとうございます。いずれ
会長のご指示を仰ぐことも出てくると思
います。その時は、ご指導よろしくお願
いします」
うんうんと満足そうに頷く会長が、やっ
と彼の隣にいる私に視線を移した。
「…君は…飛鳥社長の秘書だったかな⁈」
「はい…会長。宮内 胡桃といいます」
突然声をかけられたが、いつ声をかけら
れてもいいように頭の中でイメージトレ
ーニングをしていた。そのおかげで、動
じることなく直ぐに答えられてホッとす
る。
そんな私に、彼はほくそ笑んでいた。
憎らしい男
私の手をグイッと引っ張り車から降ろし
て峯岸さんが運転する車は行ってしまっ
た。
車の後ろ姿を見ている私の腰に手を置き
、歩みを促す彼が耳元で囁いた。
(胡桃…恋人らしく演じろ)
本来の目的を思い出し、視線を彼に向け
た。
彼の中ですでに演技が始まっているよう
で、優しい笑みを浮かべている。
1度だけ、大きく息を吸って覚悟を決め
ると彼の腕に手を絡め一緒に歩みを進め
た。
会場になる大きなホールに足を踏み入れ
ると、すでに大勢の人が集まり賑わって
いる。
そして、視線が一気に集まり静かになる
が、彼の腕に寄り添う私に視線が集中し
だし、ひそひそと話し声がしだした。
そんなことを気にしないというように彼
はある人物を見つけ、歩き出す。
「会長…お久しぶりです」
会長…建築業界のトップで、政治家とも
深い繋がりがあり、彼の一言で政治生命
が絶たれるという噂もある人物だ。
「おぉ、零君じゃないか…君が今日来る
と聞いていたが、いつ、日本に戻ってき
たんだ⁈」
「つい、数日前です。真っ先に会長にご
挨拶をと思いまして父の名代で参りまし
た」
深々と頭を下げ、笑みを浮かべる彼。
「そうか、そうか…ということは跡を継
ぐ為に戻ってきたのかね⁈」
恰幅のいい会長は嬉しそうに尋ねる。
「はい…まだ先の話です。今は、父の側
で学ぼうと思っています」
堂々とした態度で答えていた。
「そうだな…建築家として名前を売って
いても君はまだ若い、お父さんの元で経
営を学ぶことが大事だろう。何かあれば
頼りなさい」
「はい…ありがとうございます。いずれ
会長のご指示を仰ぐことも出てくると思
います。その時は、ご指導よろしくお願
いします」
うんうんと満足そうに頷く会長が、やっ
と彼の隣にいる私に視線を移した。
「…君は…飛鳥社長の秘書だったかな⁈」
「はい…会長。宮内 胡桃といいます」
突然声をかけられたが、いつ声をかけら
れてもいいように頭の中でイメージトレ
ーニングをしていた。そのおかげで、動
じることなく直ぐに答えられてホッとす
る。
そんな私に、彼はほくそ笑んでいた。
憎らしい男