悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
「いいえ…気にしていません。突然の目

の前に婚約者だと紹介されて驚かれたの

でしょう。私も、零さんがこの場で会長

にご報告するとは知らなかったもので、

驚いてしまいました」


「そうなのかね⁈」


会長が、彼に問いかける。


「申し訳ございません。先ほど、こちら

に向かう車の中で返事をもらったもので

つい嬉しくて、彼女になかった事にされ

る前にご報告いたしました」


私の嫌味も彼には届いていないのか、饒

舌に嘘をつく。


話を信じた会長は驚きを隠せずにいる



「君がか⁈……愛するがゆえか⁈逃げら

れないようにそこまでするとは、君は情

熱的だったということだな」


「そうみたいですね」


2人は可笑しそうに笑っていた。


架空の婚約者を作っても、彼の嘘と演技

なら乗り切れたのではと考えてしまう。


周りの嫉妬の視線が、背に突き刺さり心

が痛い。


私はいったい何をしているのだろうか⁈


自分の心に嘘をつき、彼を好きにならな

い為に彼に嘘をつき、彼から離れる為に

彼の側で嘘をついている。


嘘に嘘を重ね、どこまで嘘を重ねるのだ

ろう…


「……結婚式を楽しみにしているよ」


会長との会話が終わり、去り際に会長が

笑みを浮かべさ去っていく。


意識が別の場所にあったせいか、彼と会

長が何を話ていたのかわからない。


彼の袖を引き、首を傾げ問いかけるも笑

みを浮かべるだけで答えてくれない。


「疲れただろう?挨拶も終わった事だし

、少し外でも出るか⁈」


婚約者だと紹介され、気が張っていたこ

ともあり、一気に疲れが出てきた。


それに、誰もいない場所で彼を問い詰め

る必要がある。


「そうね…零。ゆっくりしたいわ」


彼の腕に腕を絡め、微笑む。


誰に聞かれているかわからないから、恋

人⁈いえ、婚約者のふりをしてみせた。


彼は、ボーイからグラスを2つ受けとり

、1つは私に差し出した。


彼からグラス受け取り、エスコートされ

たままベランダに出ると外はまだ肌寒く

て体を両手で覆う。


すると、彼は何も言わずに上着を肩にか

けてくれた。


「…ありがとうございます」


(……)


彼が何かを呟いたが聞き取れなかった。


「……あの…どうして婚約者として紹介

なんてしたんですか?恋人のふりだとお

っしゃったのに話が違います」
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