悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
お互いシートベルトをすると零は膝の上

に置いていた私の手をとり指を絡めて手

を繋いだままエンジンをかけ車を走らせ

た。


どこをどう走っていたのかわからないぐ

らい、零と初めて繋いだ恋人繋ぎは心臓

に悪くドキドキが止まらなかった。


私たちは、お互いの肌を知っているのに

手を繋いだぐらいで何を緊張しているの




零も緊張している⁈…


そんな訳ないか…


零をそっと盗み見てたはずが、信号で止

まった時に視線が合ってしまった。


慌てて視線をそらす。


「……目をそらすなよ。傷つく…」


「そらした訳じゃないわ」


「なら、こっち向けって」


「……」


向ける訳ないじゃない。


暗がりならともかく、周りのネオンで車

内は少し明るく私の顔が赤くなっている

のがわかってしまう。


痺れを切らした零が、繋いでいた手を引

き寄せ、私の体が運転席にいる零に片寄

る。


零の空いている手が私の頬を包む、そっ

と触れる唇。


久しぶりの温かい感触にうっとりと目を

閉じてた。


スッーと離れていく唇


名残惜しくてもう一度と顔を少し上げせ

がんでいる私に、触れる1本の指。


「時間切れだ」


甘い声色に目を開けると信号が青に変わ

っていた。


零はハンドルを握り車を走らせる。


信号で止まる度、甘いくちづけが落ちて

くる。


『キャー』✖️道行く人


『いいな…』✖️道行く人


停車中の車の前を横切る人達の声なんて

気にもしないで、大胆になっていく唇。


もう…といいながら零の頭に手を回し髪

に指を滑らせる私。


後続車のクラクションが鳴り、催促され

て我にかえる2人。


頬を染める私とクスッと笑い、車を運転

し始める零。


「…刺激的だろう」


「もう…恥ずかしすぎる」


楽し気に声を殺して笑う零。


絶対、私の反応を見て面白がってるだ。


あの余裕そうな顔


ムカつく…


さっきまでの零と違う態度に苛立った。


繋いでいる指を抜き取ろうとしても、ぎ

ゅっと握られ離れない。


クッと睨んでも鼻であしらわれる。


そうこうして無意味なやりとりをしてい

るうちについた場所は、高層マンション

の駐車場。


停めた車から降りるとマンションの中へ


「飛鳥様、おかえりなさいませ‥」


コンシェルジュらしき年配の男性が綺麗

な姿勢で出迎えてくれた。
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