悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
零は気にもとめずにエレベーターに向か

う。私は、零の後に続いて歩きながらも

出迎えてくれた男性に一度だけ少し頭を

下げた。


気づいてくれた男性は、笑みを浮かべる


「おやすみなさいませ」


エレベーターの扉が閉まる時に、扉の前

まで来て綺麗なお辞儀をしていた。


「‥……彼は松本さんだ。ここを全て管

理しているから何か用があれば頼むとい

い」


頼むといいって…言われても


「ここに零が住んでるの⁈」


「あぁ‥」


ホテル暮らしをやめたのね。


それにしても、コンシェルジュがいるよ

うな高級マンション‥…さすが、飛鳥建

設の副社長よね。


エレベーターが止まった最上階は、ドア

が開くとすぐ目の前にスライド式の扉。


まさか…この階に部屋は一つだけ⁈


指紋認証システムなのか手をかざすとス

ッーと開いてく。


零に促され入っていくと何もない広々と

していて一面ガラス窓に殺風景な部屋。


あるのは、広い部屋の中央にソファとガ

ラステーブルがあるだけ…


「座って…」


1人掛け用にスーツの上着をなげると長

いソファの隅に腰掛け、私の手をとり零

の膝の上で横抱きされる。


恥ずかしくてうつむく私の顔を長い髪が

隠した。零の手が耳に髪をかけ髪にキス

をする。


「くるみ…お前が姿を消して俺がどんな

に心配したかわかってるのか⁈」


ううんと首を振る。


「俺は、何も言わなくても分かり合えて

ると思っていた。それなのにお前は他の

男と見合いしたと言って頭にきたんだ。

身体を繋いでも心までは繋げていなかっ

たのか⁈俺の一方通行だったのかとがく

然とした」


そっと零の手のひらが頬を撫でる。


「峯岸にたしなめられて、大事な事に気

づいた。どんなにキスしたって、身体を

重ねたってお前の不安に気づいてやれな

かった。態度で示してるつもりだったが

言葉がなかった。だから、お前は俺の心

がわからなくて離れようとしたんだよな

⁈…」


「‥…零…私ね。あなたと最初にあった

のは社長と一緒に出席したパーティーの

日じゃないの。もっと前にあなたと会っ

ていた……ホテルのバーで一緒に飲んで

…」

私が話してる間、零の手は私の髪の毛先

を指に絡めてくちづけをしている。


「…あなたと…一夜を過ごしたの」
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