悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
「胡桃…君があの日の彼女だとパーティ

ーの日に気づいていたんだ」


目を見開き、問いかける。


「……ウソ⁈」


「どんなに化粧でごまかせても、唇の下

にある小さなほくろは隠せない。それに

耳の裏にもほくろがある」


零の指が私の耳裏にある私の知らない黒

子をなぞる。


「…それじゃ、どうして⁈そのまま気づ

かないふりをしていたの⁈」


確か彼は勘違いだと言ったわ。


「あの時の君は、俺が誰かわかっていな

がら名乗らなかった…だから、君に合わ

せたんだ」

「それなら、そのまま気づかないふりを

していてくれればいいのに…どうして私

だったの⁈私の心を弄んだの⁈…ひどい

わ」


なんのために悩んでいたのかわからなく

なり、目尻を涙が伝う。


「ひどい⁈ひどいのは君だ。あの日、あ

んなに情熱的な夜を過ごして君は姿を消

した。そして再会して喜んでいたのに再

び、姿を消した。どれだけ俺が苦しんだ

かわかるか⁈」


悲しい気に言葉を繋いでいく。


「私だって苦しんだの。最初、あなたに

とって私みたいな三十路は一夜の遊びの

相手だと思ってた。、再会した時は驚い

たわ。あなたは飛鳥建設の御曹司…住む

世界が違う‥本気になっちゃいけない。

そう思ってたんだもの…でも、触れるた

びに身体だけじゃなくて心も欲しくなる

の。身体繋げて甘い言葉をもらっても1

番欲しい言葉はくれなかった。どんどん

欲張りになってあなたに愛されたいって

…側にいるのが苦しかったの」


「‥……俺の言葉が足りなかったから不

安にさせてたんだよな」


「…そうよ。だって私は女除けの為の偽

物の婚約者だもの」


「そう、膨れるな」


プクッと膨らませた頬を零の指が突っつ

く。

「全ては、会社を辞めると言うお前を引

き止める口実だ。後にも先にも俺をこん

な風にするのはお前だけだ」


「うそ…」


あなたの周りには綺麗な人がたくさんい

たんでしょう。私みたいな平凡な女が…


グッと下唇を噛む。


「噛むのをやめるんだ。唇が傷つく…お

前の唇は俺を惑わす…お前とのキスは俺

を翻弄するんだ。こんなに大事だと思っ

た女はお前以外いない」


下唇をなぞる指がクイっと顎を捉え持ち

上げる。


熱ぽく見つめる零の顔が近づく。




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