悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜

「……」


「時間と場所はこのメモに書いてありま

す。副社長に恥をかかせないようきれい

に着飾ってもらってください。それまで

、君はここで電話番でもしているといい

。私は、仕事があるのでこれで失礼しま

す」


辛辣な言いかたで、冷たい視線を向ける

と峯岸さんは、秘書室を出て行ってしま

った。


私の役目は、お茶くみと電話番、恋人役

を演じることだとは思いもしなかった。


ショックをうけ椅子に腰掛けると、机の

上にある自分の私物の中に黒い手帳を見

つける。


手に取りページをめくれば、秘書として

培ってきた情報が書きとめてた物だ。


そうだ…少しでも秘書らしいことがした

い。


副社長の力になれるかもしれないと考え

まとめ始めた。


応接間のドアが開いた事にも気付かずに

黙々と一心不乱に細かい事まで書いてい

た。


視界の明かりを遮る影を辿れば、目の前

に立っている彼が手帳を覗き見る。


「俺に気づかないほど何に集中している

のかと思えば……」


手帳を奪われ、彼が手帳を凝視している

。側により余計な事だと怒られるのでは

ないかと内心ビクビクしていた。


「……よくできている。業種別にわけ、

業者同士の関係性だけでなく、取り引き

先の内情まで。これだけの情報をまとめ

るのは大変だったろう⁈」


優しい眼差しで微笑む彼。


「いえ…社長のお側で勉強させて頂いて

たので、忘れないようにメモ程度にその

都度書き留めていただけですから…この

手帳が副社長にお役に立てるならお使い

下さい」


彼からの労いの言葉に嬉しくて頬を染め

、恥ずかしくて視線をそらしうつむき加

減で答えた。


「……これは、君が側にいれば必要ない

と思うが、預かっておこう」


「はい…3ヶ月後には私はお側にいませ

んので……」


彼の表情が険しくなっていく。


何か、間違いをおかしたのだろうか?


手帳をパタンと閉じると彼は秘書室のド

アの鍵をカチャンっと閉めた。


振り返った彼は、険しい表情のまま喉元

のネクタイの結び目を緩めると、一歩一

歩近づいてくる。


私は恐ろしくて後ずさるしかなかった。


何が彼の表情を険しくさせたのか理解で

きないままガタンとぶつかり、机が私の

行き場を塞いだ。


「……ふく、社長⁈」


「……」


どんどん距離を縮め目の前にいる男。
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