命の上で輝いて
「きっと、お姉ちゃんも大変なんだよ」
美沙の妹、美優は少し意味ありげにほほ笑んだ。
「大変なのは分かるけど、連絡がないのはだめよ。10時に電話してから、その1時間後に帰っていたのよ。」
「彼氏と遊んでたんじゃないの。」
「そしたら、ちゃんと言うわよ。昨日は公園でぼぉっとしてたんだって。」
雅子はまだ昨日のことは納得しておらず、目玉焼きを調理しながら昨日のことを思い出して、少し美沙のことを不安に思っていた。
「やっぱり受験生だからストレスたまってんのかな、あの子。」
「そりゃあ溜まるんじゃない。彼氏にも週に一回しか会わないんでしょ。」
雅子は目玉焼き3皿分、ダイニングのテーブルの上に置いた。靖は早朝の会議のためにいつもより早めに家を出ていた。
「でも、お姉ちゃん、ちゃんと勉強してるから、彼氏と同じ大学いけるよきっと。」
「そうなのかしら。この前先生にもう少し勉強しろとか言われたらしいけど。」
「そんなもの愛の力で乗り越えちゃうんじゃない」
美優はトーストにバターを塗って噛り付いた。
ブレザーにトーストのカスがこぼれ落ちる。美優はそれを手で払いながらお気に入りの俳優が朝のテレビ番組に出ているのを食い入るように見つめていた。
「ちょっと、手で払わないの。床が汚れちゃうじゃない。」
そういいながら、雅子はエプロンを脱ぐ。
雅子も椅子に座り、トーストにバターを塗ってそれを齧る。
「あの子ったらどうしちゃったのかしら。まだ寝てるの。」
束の間、雅子は思い出したのかように立ち上がり、ダイニングのドアを開け、二階に向かって叫んだ。
「美沙、起きてるの。早くしないと遅刻するわよ。」
そういうと、二階の美沙の部屋から気のない返事が返ってきた。
雅子はまた椅子に座り、齧ったパンをくわえた。
それと時を同じくして、ダイニングのドアを隔てて、階段から何かが滑り落ちたような、けたたましい音が鳴り響いた。先ほどまでテレビに夢中だった美優は驚き体を震わせ、雅子は悲鳴を上げて、反射的に階段の方へ駈け出した。
ダイニングのドアを開けると、美沙が階段の下でうずくまり、身動きが取れない姿が雅子の目に入った。