命の上で輝いて
美沙は摩る雅子の手を捕えて握り返した。強く強く握った。雅子もそれに応えるように握ったが、美沙の力が強すぎたために痛みすら感じていた。
しかしながら美沙の手のかすかな震えを感じ取り、何も言わずにその痛みを受け入れた。
「お母さん、わたしどこからどう見ても川上美沙だよね?」
美沙は雅子に対して愛に飢えたように、確認した。
雅子には美沙の後頭部しか見えなかったが、何かにおびえている美沙の様子を感じ取り、すぐさま「そうよ、私の娘だよ」と優しく語りかけた。
美沙は振り返り、顔を濡らして雅子に抱きついた。打撲の痛みは美沙の感情の高ぶりによって、ほとんど打ち消されていた。
久しぶりの母親の胸の中に飛び込んだ美沙は得も言われぬ安堵感に包まれていた。
雅子も久しぶりに抱いたわが子の感触を両腕で感じていた。こんなにしっかりと娘と触れ合ったのはいつ振りだろうかと考えながら、成長したわが子の背中を感慨深そうに撫でた。
「美沙大きくなったね。たくましくなって。」
「うん」
「いつぶりだろうね」
「小学校振りかな。懐かしいなこの匂い。もう嗅げないかと思ってた」
美沙は雅子の胸に顔を押し付けた。
「なんだか赤ちゃんに戻ったみたいね」
「できるなら赤ちゃんに戻りたいよ」
「それは困るなぁ、美沙夜泣きひどかったし」
「本当?じゃあもう泣かないようにする」
雅子は再び両腕を背中に回して、強く抱きしめた。
「泣いてもいいんだよ。その代わり、何かあったら必ずお母さんや、お父さんに相談してね。急に夜飛び出したりせずに。」
美沙は一瞬沈黙したが「うん」と小さな声で答えた。
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