命の上で輝いて
かろうじて空は赤みを帯びた明かりを保っていたが、マンションやオフィス、住宅の多くの窓から明かりが零れていた。ある家の窓からの美味しそうな煮物の匂いが帰路を急ぐサラリーマンの食欲を刺激し、歩みを早めさせていた。
まだ二人が抱きしめあった余韻の残る中、そんな街並みを美沙はうっすらと反射する自分の顔をたまに確認しながら眺めていた。それからしばらく経って、美優が病室の扉を急に開け、飛び込むようにして入ってきた。美沙は体を震わせ驚いた。
「お姉ちゃん大丈夫」
美優は肩で息をしながらベッドに座ってぼうっとしている美沙を見つめていた。
「大丈夫だよ」
美沙は美優の姿を見て少し安心したのか、また窓の方へ視線を向けた。
「本当に大丈夫なの?記憶なくなっちゃったとかいうし」
美優は美沙のベッドの窓側に回り込み、ベッドの淵に両腕をついて美沙の顔を覗き込んだ。間近で見る美優の真剣な表情に滑稽さを覚えて美沙は噴出した。
クスクスと笑う姉の姿に、美優は脱力感を覚えた。
「もう、何よ。いくら母さんが大丈夫だから学校行きなさいって言ったってめちゃくちゃ心配したんだから。おかげで今日は全く勉強が身につかなかったんだからね。」
美優は、ヘナヘナと肩をだらりと下げて、またベッドの反対側に回り込んで、雅子が座っていたパイプ椅子に腰を掛けた。
「お母さん、今お姉ちゃんの着替え取りに帰ってるんでしょ。」
「うん。」
「体調は?」
「そんなに悪くない」
美優は心配して損した気分と、安堵した気分で美優はどんな表情をして良いのかわからなかったが、「あっそう」と話を切って学生鞄をあさり始めた。
賑やかしい妹を見つめながら、美沙はまたもや涙を瞳に浮かべていた。
「あった、あった」と美優はクマのキャラクターのストラップの付いたピンク色の携帯電話を取り出した。
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