命の上で輝いて
美優は携帯電話を美沙に渡した。
「お姉ちゃん、使うでしょ、彼氏さんとメールしなきゃね。」
「うん」
「あれ、お姉ちゃんなんで泣いてるの」
「いやあ、なんかあんたのそんな姿、久しぶりに見たから」
「本当に、記憶なくなっちゃったんだね。」
美優は俯いた。美沙は頬を零れ落ちる涙を袖で拭った。
「大丈夫、あんたのことはちゃんと覚えてるから。」
美沙はところどころ角の剥げたピンクの携帯電話を開いた。
携帯電話の画面の真ん中には、暗証番号の文字が映されていた。
「あ、美優、だめだ今使えない。暗証番号わかんないんだもん」
「あ、そうか。いつから記憶ないの?」
「うーん、高校入って少し立ってからかな。」
「そうか一年くらい前に携帯変えたんだもんね。じゃあ彼氏さんが誰かもわかんないの。」
「まぁ、想像はつくけど」
「え、やだなぁ、ノロケ」
最初の若干の病室の緊張感は美優の持ち前の明るさで完全に霧消していた。
「で、その、誰なの。」
「誰って何が。」
美沙は少し顔を火照らせた。美優は意地悪そうににやけた。
「彼氏だよ、私の。」
「えー想像つくって言ったじゃん。」
「一応だよ、一応」
美沙は勿体つけて、数秒間黙ったが、美沙の真剣なまなざしに気圧されて、答えを言わざるを得なかった。
「翔くんだよ。」
「そっか」と呟いて、美沙は口元をへの字に曲げたが、やがて堪えきれずに涙が溢れ、まぶたを閉じたとき、大粒のしずくが何粒か足元にかけていた布団にこぼれ落ちた。
「なんでそんなに泣いてるのよ、お姉ちゃん」
美沙は声を漏らしながら泣いた。その姿を美優は微笑ましそうに見つめた。
「幸せ者め」
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