Love nest~盲愛~
今は先の先まで読んで、対策と準備を施した上で、コツコツと事業を拡大しているらしい。
どんな手を使って来たとしても、その先で跡形もなく消せるくらいに。
彼の父親の会社も乗っ取られたらしく『結婚』を条件に、名前と会社を元に戻すと契約しているらしい。
だから、取り戻すチャンスは1回だという。
彼が今日まで必死に頑張って来たことを、私の軽い言動で有耶無耶には出来ない。
体中に沢山の傷を負って、大人になっても未だに嫌がらせに遭ってるだなんて。
いつの時代よ。
精神科への紹介した方がいいんじゃない?
どう考えても、まともな人間だとは思えない。
彼が抱えて来た大きな問題をやっと知ることが出来た。
私が手伝えることなんて、西賀の両親の前で挨拶することと婚姻届けに判を押すことくらいしかない。
彼の心の傷が癒えるとは思えないけれど。
私の中では、既に家族の一員のような存在だ。
この屋敷にいる人たちも。
腕組している彼の背後に回って、背中にぎゅっと抱きつく。
「えな?」
「何て呼べばいいの?お兄ちゃんじゃない方がいいでしょ?」
「好きに呼べ。お兄ちゃんがよければ、それでも構わない」
「ダメだよ。……ご両親と呼べるのかは分からないけど、ついうっかりミスは隙を作ってしまうもの」
「ん~、そうだな」
「哲平さん?」
「……ん、呼び捨てでもいいぞ?」
「それは、さすがに」
彼のことを呼び捨てに出来るようになるには、何年かかるだろう?
「では、哲平さんと呼ぶように心掛けます。だから、私が言い間違いせずに、自然と呼べるようになったら、その時にプロポーズして下さい」
「………えな」
顔だけ振り向いた彼の口元が、(ありがと)と言った気がした。