Love nest~盲愛~
招かざる客
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「おっ……哲平さん、行ってらっしゃい」
「フフッ、行って来ます」
チャコールグレーのスーツをカチッと着こなし、仄かにムスクの香りを纏った彼が使用人の目も気にせず、えなの額に口づけた。
そんな様子を微笑ましく見守る今井は、他の使用人たちに持ち場に戻るように指示を出す。
車が見えなくなるまで手を振るえな。
数時間後には会えるというのに、既に物寂しさを覚えていた。
「えな様、お支度のご準備を」
「はい」
踵を返し、えなは自室へと戻る。
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西賀の会社を初めて訪れて以来、頻繁に通うようになっていた。
というのも、少しずつえなを代表夫人として鍛え上げる為に。
中退したとはいえ、元々大学では親の会社を引き継ぐために経営学を専攻していた。
だから、基本的な部分は多少なりとも備わっている。
西賀の会社は1つではなく、ベンチャー企業を主体として手広く事業を拡大している。
だからこそ、色んな分野の知識も必須で、えなは少しずつ事業の軸となる部分を把握する為に出勤するようになった。
肩書は、代表補佐。
本社に勤務する15名ほどの従業員は既に把握済みだが、西賀の養父母らがいる都心部の会社では、まだえなの存在は知られていない。
万が一バレたとしても、その時は入籍を理由に紹介する手筈になっている。
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「今井さん、アイラインはこんな感じで大丈夫ですか?」
「そうですね、もう少し引いても宜しいかと」
「もう少し……」
メイクが苦手なえなは、童顔の顔立ちを少しでも大人っぽく仕上げる為に、キリっとした雰囲気に仕上げようとしていた。