Love nest~盲愛~

「えな様、車にお戻り下さい」

「え?」

「早くっ!!」

「えっ、何?……どういうこと?」


急に白川さんの表情が強張り、私を後部座席へと押し込めようとする。

後部座席のドアが開き、仕方なく乗り込もうとした、その時。


「白川さん、そちらの方は………どなたかしら?」


聞き慣れない女性の声がして、無意識に声のする方に振り返った。

花柄のワンピースの上に紺色のジャケットを羽織った女性。

50代くらいに見えるその女性は、10センチはあろうかというピンヒールで優雅にこちらへと歩いて来る。

ふんわりと巻かれた長い髪、くっきりした輪郭が真っ赤な色を強調させる口紅。

鋭く狙いを定めたような眼は、恐怖さえ感じるほどの迫力があり、思わず一歩後退りしてしまった。

肌で感じる威圧感が、警笛を鳴らす。

この人は危険だと。

無視するわけにもいかず、丁寧に会釈する。

彼の継母だと思うから。

口角が緩やかに持ち上がり、私が何者なのかを見定めようと視線が上下する。

まるで、値踏みするかのように。


「大至急、エントランスへ」


背後で白川さんの慌てた声がする。

恐らく、彼に電話を入れたのだろう。

会釈はしたのだから、もうここから退散すべきなのかもしれないと思った私は、今一度会釈して乗り込もうとした、次の瞬間。


「声をかけたのに無視するだなんて、失礼な人ね」


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