Love nest~盲愛~
あからさまな嘘だと分かる。
だって、ここは郊外だし、近くに寄れるような目ぼしい施設はない。
国道からも離れているし、高速からもかなり離れている。
どこかへ出掛けたついでというのは無理がある。
「そちらのお嬢さんは、どなたかしら?紹介して頂ける?」
明らかに私に視線を向けているのが分かる。
それと同時に彼が困っている状況だという事も。
彼が言っていた。
紹介する時は、同時進行で入籍する手筈になると。
まだ彼の名前を間違わずにすんなり言えるようになったわけではないけれど。
きっとそんな悠長な事は言ってられないのだと分かるから。
ぎゅっと握られている彼の拳。
怒りなのか焦りなのかは分からないが、感情を押し殺しているのが分かる。
手を伸ばし、その手を包み込むようにして彼の隣に立った。
「初めまして、古市えなと申します。近々ご挨拶に伺おうと思っておりましたが、ご挨拶が遅くなりまして大変申し訳ありません。哲平さんとは、結婚を前提にお付き合いさせて頂いております」
私は覚悟を決めた。
だって、これ以上、彼に嫌な思いはさせたくない。
私に罵声を浴びせようが、汚い手を使って別れさせようと手を回してくるか分からないが、そんな事は覚悟の上。
彼とこの先の人生を共にすると、既に心の中で決めてある。
それが、ほんの少し早まっただけ。
言いたい事すら言えずにずっと耐えて来た彼をこれからは私が守ると決めたのだから。
「えな……」
申し訳なさそうな表情を浮かべる彼に笑顔を向ける。
私は大丈夫だから、と。