Love nest~盲愛~

「映画だなんていつぶりだろう?」

「デートらしい事、何もして無かったしな」

「毎日、お部屋デートしてますよ?」

「あれがデートか?」

「はい、十分に」


砂浜を散歩した私達はショッピングモールにある映画館を訪れた。

カジュアルだけど、クールに着こなしている彼は周りの視線を無条件に奪い去るほどカッコよくて。

歩く姿勢も話す仕草も大人の男の色気があるのか、すれ違う女性らが皆うっとりと見惚れてしまう程に。

完璧なエスコートをしてくれる彼の背中を見つめて、ほんの少しだけ心が痛む。

私の知らないお兄ちゃん()の過去があるのは分かっていても、やっぱり少しだけ嫉妬してしまう。


「えな」


私の視線に気付いたのか、彼が手を差し伸べた。


「どうした、気分でも悪いのか?」

「ううん、大丈夫」

「迷子になるから、掴んでろ」

「子供じゃないんだから、迷子にはならないよ」


私の手を掴んだ彼は、自身の腕に絡ませるように私を引き寄せた。

そして、人目も憚らず私の耳元に甘く痺れるようなバリトンボイスで呟く。


「まだ子供だろ」

「っ……」


彼のいう子供の意味が分かるだけに、カチンと来るも、動揺も隠し切れない。

だって、近いうちにきっと、彼によって子供を卒業するであろうから。

ぷくっと膨れる私をあやすように頭にキスを落とす彼。

周りの女性がキャーッと騒いでるのも気にせず、彼は歩き出した。

私を優しく見つめながら…。

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