Love nest~盲愛~

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「お帰りなさいませ」

「ただいま戻りました」

「少し熱があるから、薬と世話を頼む」

「承知しました」


自宅のエントランスに車を横付けし、トランクや後部座席から荷物を下ろす彼。

それを手伝う執事長の奥村さんを横目に、私と今井さんは2階の部屋へと向かった。



「では、えな様。御用がお有りの際はお呼び下さい」

「ありがとうございます」


今井さんはスマホを手にして、連絡はコレで!と合図した。

部屋着に着替えた私は、ベッドに潜り込む。

緊張から解放された体は、疲労感が一気に出たようで、その晩熱が39度まで上がった。


「えな」


久しぶりの高熱で完全にダウンした私は意識朦朧としながら、心地よいバリトンボイスの幻聴に癒され深い眠りについた。


「早く元気になれ。あまり心配させるな」

「坊っちゃま、代わりますよ」

「ん、後は頼む」


哲平はうしろ髪引かれながらも自室へと戻る。



翌朝、37度台に熱が下がったえなは、哲平の出勤支度を手伝おうと隣の部屋へと。

コンコンコンッ。

部屋の中から声がして、まだ出勤してない事に胸を撫で下ろす。


「失礼します。おはようございます」

「えなっ、もう起きたのか?もう少し寝てたらいいのに」

「ご心配お掛けしました。もう大丈夫です」

「無理するな」


哲平はネクタイを結びながら、微笑むえなを見据え溜め息が出る。

えながどうして欲しいのか、分かるからだ。


「ん、ちょっとだけだぞ?」


昨日1日殆ど傍にいてやれず、寂しい想いをさせた事への罪滅ぼし。

哲平はえなを優しく抱きしめた。

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