Love nest~盲愛~



数日後の夜。

哲平はえなを連れて、とあるホテルの和食処を訪れる。

到着すると、既に西賀の養父母と義兄の姿がある。

今日はえなを紹介する名目で、会食の席が設けられている。

上品なベージュのワンピース姿のえなは、ダークグレーのスーツをビシッと着こなす哲平の少し後ろに隠れるようにして入室。

完全な個室タイプのこのお店は、回廊仕立てで中心部に中庭のような造りがあり、そこに枯山水のミニ庭園が設えてある。

そこにある獅子脅しが、緊迫した空気を和らげる働きをしていて、カコンッと空を切るような音を響かせている。


「ご無沙汰しております」

「初めまして、古市えなと申します」


鋭い視線を向けられていても、動じる事なく、えなはしっかりと挨拶をした。


「先日は……」


哲平の養母が不適な笑みを浮かべると、その隣に座る哲平より少し年上に見える男性が驚いた表情を見せた。

哲平の義兄(孝之33歳)は、頭の出来はそこそこだが、性格は悪魔の申し子とでも表現したらいいのか、とにかく邪悪そのもの。

何でもそつなくこなす哲平を目の敵にし、養父母の嫡男という事を盾に、哲平のものを全て奪う事に幸せを感じで生きているような人間。

だからこそ、えなを屋敷から出さずにいるのだ。

養母(奈津子58歳)が息子を溺愛するあまり、拷問と思える監視を哲平へとしているからだ。

車や時計といったアクセサリーなら代わりが利く。

だが、会社を奪うだけで飽き足らず、友人達も奪うような真似をこれまで何度もされて来た。

御影の御曹司は唯一その甘い誘いに乗らなかった貴重な人物だ。

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