Love nest~盲愛~
一網打尽
とある日の朝。
彼から盗聴の一件を知らされ、お互いの自室以外の場所にもあると思うと、美味しそうな食事ですら喉を通らない。
「えな様、ご気分でもお悪いのですか?」
「あ、いえ。少し寝不足なだけです」
「坊ちゃま、えな様を可愛がるのは程々になさいませっ!元々食の細いえな様が食事を摂らないとなると、御子を育てるのは困難にございますよ」
「分かってるって。あまりに可愛いもんだから、つい。反省反省~」
「て、哲平さんっ」
私が食べないばかりに、彼に飛び火が移ってしまった。
なのに、彼はそれをさらりと交わす。
今井さんの直球も想定内なのか、軽くあしらうように。
この会話ですら盗聴されているかもしれないというのに……。
2人の神経が常識を超えていて、言葉にならない。
今までもこんな生活をずっと続けて来たのだろう。
だから、彼は必然的に無口なのかもしれない。
「あ~ぁ、色んな事考えるの止めました!お料理に申し訳ないから、戴きます!」
「フッ、やっとえならしくなったな」
*
7時半過ぎ。
出勤支度を手伝うために彼の部屋を訪れる。
ネクタイを結び終えた彼が、誰かと通話中。
テーブルの上に置かれたカフスボタンを手にして、スマホを持ってない方の袖にカフスをつける。
すると、スマホを持ち替えた彼。
すぐさまもう片方の袖にもカフスをつける。
仕事用のジュラルミンケースが開いていて、そこにノートパソコンと手帳などを入れ終わると、背後から彼に抱き締められ、仄かに煙草の香りが鼻腔を掠めた。